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名古屋地方裁判所 昭和52年(ワ)278号 判決

原告 山本是義

右訴訟代理人弁護士 青木俊二

同 中田寿彦

被告 高島建築こと 高島治登

右訴訟代理人弁護士 那須國宏

被告 古川設備工業株式会社

右代表者代表取締役 長瀬長頼

右訴訟代理人弁護士 近藤堯夫

主文

一、被告らは、各自原告に対し金五三七、四四〇円及びこれに対する昭和五二年二月二四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二、原告のその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用は三分し、その二を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。但し鑑定費用は三分し、各その一を原、被告らの等分負担とする。

四、この判決は、第一項に限り、原告が被告らに対し各一三万円の担保を供するときは、その被告に対し仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し各自金二、二二六、四〇〇円及びこれに対する昭和五二年二月二四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言。

二、請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一、請求の原因

1  被告高島は土木建築請負等を業とするもの、被告会社は、給排水工事の請負等を業とするものである。

2  原告は、昭和五〇年五月一〇日、被告高島と別紙目録記載の建物の建築工事請負契約(給水給湯工事を含む)を請負代金額九七五万円で締結し、被告高島は、右給水給湯工事を被告会社に下請負させた上、右建物の建築工事を施工し、昭和五〇年一〇月末頃これが完成したとして引渡し、原告は右建物に入居した。

3  右の給水給湯工事は、これを下請した被告会社が訴外山本勉を使用して施工したものであるが、建築工事契約において約定されていた給水給湯工事の内容は次の通りである。

(一) 給水工事は直圧方式によるもので右建物の各所に給水を得るため市の配水本管から分岐した給水引込管を本件建物へ配管し、これに附着する給水栓より直接給水を行う。

(二) 給湯工事については、右の給水引込管を電気温水器に直接接続させてこれに給水し、電気温水器で加熱された湯が同器から給湯配管を経由して以下に述べる給湯栓(給湯口)から給湯を行う。

(三) 電気温水器からの給湯配管は右建物一階の厨房、便所、脱衣洗面室、浴室内に配管された五か所の給湯栓(給湯口)から給湯するように施工することとされていた。

4  原告は入居後、給湯設備を使用したところ、水圧不足で給湯栓からの湯の出方が全般的に不良であるばかりでなく、特に浴室内のシャワーにおいては、湯と水がまじり合わずこれが交互に噴出するため全く使用不能の状況にあった。

5  これは、市水道管から水を直接シャワーに接続する配管が行われたため水が減圧されず、従って湯と等圧でないためにシャワーからは湯と水が均一にまじわらないというのが最たる原因であるが、本件給水給湯工事には、以下の如き違反工事がなされていることが明らかになった。

(一) 電気温水器に接続する給水引込配管は、口径二〇ミリメートルの給水管を使用すべきところを、口径一三ミリメートルのものが使用されている。

(二) 給水管の材質は亜鉛鍍鋼製のものを使用すべきところ、耐熱ビニール製のものが使用されている。

(三) 浴場のシャワー用配管に備置されたサーモスタット、浴室のシャワー器具と浴槽の蛇口各一個、洗面所の混合水栓二個、台所の混合水栓と給水蛇口各一個、電気温水器はいずれも名古屋市水道局の検査に合格していない性能不良のものが使用されている。

(四) 電気温水器に減圧弁がほどこされていない。

(五) 給湯工事については名古屋市水道局の承認が得られていない。即ち本件給水工事の内、名古屋市水道局の承認があるのは上水道本管から台所の流し台までの間についてのみであり、台所流し台以南についての給水工事(電気温水器への給水配管)については同局の承認がない。

(六) 被告らは、以上を自認していたのである。なお原告は名古屋市水道局から右違反部分の是正を勧告されている。

6(一)  原告と被告高島との間の本件建物建築工事請負契約の際、瑕疵担保に関する約定が定められ、被告会社も右約定のもとに下請したのであるから、同様の瑕疵担保責任を負い、原告は被告らに対し右によって蒙った損害の賠償請求権を有する。

(二) 仮に右が理由がないとしても 被告会社は、名古屋市水道局指定工事人であって本件給水工事についても自ら施工するものとして、名古屋市水道局指定工事人規程第三七条にもとづく本件工事の施工に必要な調書を作成し、水道局長に提出して本件工事施工の承認を受けたものであり、従って本件工事については全面的に自己の責任においてなすことを対外的に表明していたものであるところ、被告高島及び山本勉を使用人、補助者として本件工事を施工し、前項で述べた違反工事が行われないようにこれらを指揮監督すべきであり、また被告高島は本件請負契約の当事者であって、原告から請負った本件給水工事を自ら施工せず、訴外山本勉を使用人、補助者として本件給水工事を施工し、前項記載の違反工事が行われないようにこれを指揮監督すべきであるが、被告らは指揮監督責任を怠ったから、以上の違法行為により原告の蒙った損害を賠償すべき義務がある。なお被告会社は、名古屋市水道局指定工事人規程第三九条の法意に照し、名古屋市民たる原告に対し補修費用弁償義務を負うものである。

7(一)  右給水給湯工事の瑕疵につき補修工事を施工すると、その工事及びこれに伴う工事個所の取毀、復旧工事に要する費用として、

(1) 給水設備工事    三三一、〇〇〇円

(2) 給湯設備工事    二三八、五〇〇円

(3) 衛生器具工事      一四万円

(4) 仮設工事      八五、〇〇〇円

(5) 左官及びタイル工事  二四七、三五〇円

(6) 雑工事        九九、五五〇円

(7) 諸経費        八五、〇〇〇円

合計金一、二二六、四〇〇円の支出を余儀なくされ、原告は被告らの不完全な工事のために同金額相当の損害を蒙むった。

(二) 本件給水給湯工事の欠陥は被告らの故意によるものであること、原告の本件建物入居開始後、この機能不全状態が本訴提起に至るまでの約一年四か月間放置され、この状態が尚も続いているため不便極る日常生活を余儀なくされていること、この状態継続の原因が原告の再三にわたる補修工事請求にもかかわらず所定の瑕疵担保責任を履行しない被告らの不誠実な態度にあること等のため原告は筆舌につくしがたい精神的打撃を受けた。以上の事情に照し慰藉料として金一〇〇万円をもって相当とされるべきである。

8  よって原告は、被告らに対し各自、瑕疵担保責任もしくは不法行為にもとづく損害賠償として金一、二二六、四〇〇円及び不法行為にもとづく慰藉料として金一〇〇万円、合計金二、二二六、四〇〇円並びに右金員に対する訴状送達の日の翌日である昭和五二年二月二四日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二、請求の原因に対する答弁

1  第1項、第2項の事実を認める。但し、被告高島が給水給湯工事を被告会社に下請させたとの事実を否認する。被告高島が下請させたのは訴外山本勉である。

2  第3項のうち、被告会社が下請したとの点、第(三)号の給湯栓が便所に存すること、給湯栓が「五か所」であることを否認し、その余の事実を認める。

3  第4項の事実を否認する。

4  第5項のうち冒頭の点及び第(四)号、第(六)号の事実を否認する。その余の事実を認める(但し被告高島においては第(五)号の事実は不知。)。

一三ミリメートルの給水引込管、耐熱ビニール管は、いずれも広く使われており、これらによる支障は存しない。また水道局規格違反については、原告に改善を申し入れたが、原告が応じなかったものである。

5  第6項の事実を争う。

その主張のような各違反工事が存するとしても、これは行政法規違反にすぎず、このことから直ちに補修費用請求権が生ずるものではない。なお、本件給水給湯工事の水道局の承認は、被告会社ではなく、被告会社の従業員佐藤某が、被告会社に無断で作成したものである。

6  第7項の事実を争う。

三、抗弁(被告高島)

1  原告と被告高島間の請負契約において、混合水栓を用いるのは厨房流し場の一か所のみであり、シャワー及び洗面台は単独水栓とするとされていたところ、原告は水道工事を請負った訴外山本勉との交渉により、混合水栓による現存のシャワーセット及びユニット洗面台を取付けることを内容とする請負契約を同人との間で直接締結し、よって、同部分については、原告と被告高島間の契約は解約されたものである。同様、配管の口径一三ミリメートルとすることも原告と訴外山本勉との合意によるものである。

2  工事完成後、原告から湯の出が悪いとの申し出があり、調査し、サーモスタット内の泥を除去したところ、シャワー及びサーモスタットの機能検査は良好ということになり、原告もこれを納得したものであり、しかも、被告高島の関知しない給湯設備の機能不全を主張して本訴請求することは、信義則違反或いは権利濫用として許されない。

四、抗弁に対する答弁

否認する。原告が訴外山本勉と直接話合いにより変更した点は、洗面器を鏡付洗面器にしたこと、シャワーにサーモスタットを取付けたこと、蛇口のハンドルを金属性から合成樹脂性にしたことの三点のみであり、これについての所要費用は山本勉に支払い、その余は契約に従って被告高島に支払済みである。右の変更部分は本件機能不全とは全く無関係であること、一見して明らかである。

第三証拠《省略》

理由

一、請求の原因第1項、第2項の事実(但し被告会社が下請したとの点を除く)については当事者間に争いがない。

二、まず右の争いの存する点について検討する。

《証拠省略》を綜合すれば、被告高島から契約により本件給水工事を下請したのは訴外山本勉(但し後に詳細判示するとおり、対外面では名古屋市水道局指定工事人たる被告会社の名義を用いていた。)と認められ(る。)《証拠判断省略》

三、同第3項のうち、下請者、第(三)号中の給湯栓(便所、五か所)の点を除き当事者間に争いがない。

下請者については、前項の判示のとおりであり、その余の争点については、《証拠省略》を綜合すれば、給湯栓が便所にも取付けられるとの点を除き、原告主張のとおり認めることができ、右認定を左右するに足る証拠はない(《証拠省略》によれば、三か所であるが如くにも見えるが、前掲証拠と対比し、これは正確でないと認められる。)。なお、右の便所にも給湯栓が取付けられる約であったとの、原告の主張を認めるに足る証拠はない。

四、次に同第4項、第5項について検討する。

第5項のうち冒頭の点及び第(四)号、第(六)号(被告高島においては第(五)号をも)の事実を除くその余の事実については当事者間に争いがない。

《証拠省略》を綜合すれば、原告が給湯設備を使用したところ、請求の原因第4項の記載のとおりの状況にあり、これは同第5項記載の原因によるのであって、工事には当事者間に争いのない違反工事の他、同項第(四)号乃至第(六)号の事実(但し第(六)号の点については、改修等の対応策を話合うなどに力を入れたこともあって、特に争う様子をみせなかった程度で、積極的に自認した事実までは窺い難い。)が認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

これに対し、被告らは、一三ミリメートル管、耐熱ビニール管は広く使われており、支障はないと主張し、これらは前掲証拠によりある程度認められるところであるが、本件においては必ずしも右の一般論どおりに適用されるものでなく、具体的に支障を生じ得ることが窺われるので採用することはできない。また被告らは、原告が改善に応じなかった、と主張するが、前掲証拠によれば、具体的な改善策、工事内容について協議が成立しなかったのであって、原告が改善を一方的に拒否したものとも認め難いから、右主張も採用できない。

五、以上の認定事実(当事者間に争いのない事実を含む)を綜合しつつ、請求の原因第6項について検討する。

(一)  《証拠省略》によれば、原告の主張するとおり瑕疵担保に関する特約がなされていることが認められ、以上によれば(法律の適用によっても全く同様である)、被告高島においては、原告に対し損害賠償の義務を負うことが明らかである(この点につき同被告は、行政法規違反にすぎず、補修費用請求権が生ずることはない、というが、右主張の採用し難いこと、前示のとおりである。)。

しかし、被告会社については、前記のとおり契約関係にあることを認めるに足る証拠はないから、原告のこの点の主張は採用できない。

(二)  第(二)号について検討する。

《証拠省略》を綜合すれば、

名古屋市における水道工事については、名古屋市水道局指定工事人でなければ工事を行うことができないものと定められている(この点後に詳細判示する)ところ、山本勉は右の指定工事人にはなっていないので、工事を請負うことができないため、被告会社の名義を借りて(本件を含め、前後数十回にわたっている)、あたかも被告会社が工事を施工するような形式で、市水道局への届出、許可承認手続等の一切の手続を被告会社がなし、前記工事をなしたこと、市水道局においても、これら名義貸を薄々は感づいていないでもないようである(本件の具体的事例を当初から知っていたかどうか、明らかでないが)が、名義貸者の責任と監督の下に施工される実態にあるものとの理解の下に、事実上黙認されてきたもののようであって、本件が明るみに出た後においても、市水道局においては、すべて被告会社の責任と監督の下に施工されたとの前提に立って、事後処理、改修工事の施策の対応を一貫し、被告会社もまたすべて自己の監督下の問題としてこれに応じて来ていること、

以上の事実が認められ、右認定を左右するに足る証拠はない(この点につき被告会社は、従業員佐藤某が被告会社に無断でなしたと主張し、それに副うかにみえなくもない鬼頭証言部分もあるが、前掲証拠と対比し、採用し難い。)。

他方、《証拠省略》によれば、名古屋市水道給水条例によって、給水工事はすべて名古屋市が施工するのが原則とされ、例外的に指定工事人が給水工事を施工する場合、工事の申込を受けたとき、当該工事の施工に必要な調書を作成し、市水道局長に提出して承認を受けた場合においてのみ許可されることとされていること、指定工事人となるについては、厳格な資格要件が定められ、厳密な申請、審査手続を経て市水道局長の認可を受けたものが指定工事人となることができるものとされていること、等の事実が認められ(これを左右するに足る証拠はない)、給水工事の施工者については極めて厳格な要件が定められているのであって、これらの事実に前記認定事実を綜合して考えれば、本来の極めて厳格な要件を潜脱する結果となる指定工事人が非指定工事人に対して自己の名義を利用することを許諾しているのであるから(許諾自体違法性を帯びることもさりながら)、以上の事情に照すときは、被告会社は自ら直接施工する場合以上に、厳密に適正な工事がなされるよう指揮監督すべき法令上の責務を負うものというべく、以上を要するに使用者としての指揮監督をなすべき義務があるものとみることが相当である。

そして本件においては前記のとおりの欠陥のある工事がなされており、かつ前示工事の施工手続に反した場合には(罰則の定めがある他)、給水装置を配水管から切り離すことがあると定められていることに照せば、違法性及びその結果の重大性は明白であるから、被告会社は以上による損害についてこれを賠償すべき義務を負うことが明らかである。被告会社は、以上につき行政法規違反にすぎないから原告の請求権が発生する余地はない旨主張するが、以上の説示に照しそのように解する余地はないから、右主張は採用しない。

六、以上に対し被告高島は、合意解約(抗弁第1号)、信義則違反、権利濫用(同第2号)をいうが、いずれもこれを認めるに足る証拠はない(《証拠省略》によれば、山本勉と別途直接契約した部分も存するが、被告高島と合意解約にまで至っておらず、また、原告が以前強く主張しなかった理由について権利を強く主張していることは窺われるが、これをもって濫用ということはできない。)。

七、そこで進んで損害(請求の原因第7項)について検討する。

《証拠省略》を綜合すれば、

本件工事の欠陥につき補修、工事個所の取毀、復旧工事を必要とし、その費用として左のとおりの金額を要するものとみられること(この額の認定については、上記証拠を綜合して算定するが、鑑定においては給水工事における配管口径についてこれを不要とする前提にもとづき算定しているなど全体としてかなり狭く限定しており、全体として採用の余地は薄く、前掲甲第四号証の一、二の見積書を基本とし、これに鬼頭証言による指摘を加え、鑑定の結果を参考として算定することが妥当であり、これらによると、不要と認められる見積額を除外し、その残額の六割をもって適正額と認める(鑑定と対比し、かく認めることが妥当)ことが相当である。)、

(一)  給水設備工事 一三八、六〇〇円(不要分は一〇万円)

(二)  給湯設備工事 一〇五、五〇〇円(鑑定による)

(三)  衛生器具工事 八四、〇〇〇円

(四)  仮設工事 五一、〇〇〇円

(五)  左官及びタイル工事 四七、六一〇円(不要部分及び(二)に計上済分は一六八、〇〇〇円)

(六)  雑工事 五九、七三〇円

(七)  諸雑費 五一、〇〇〇円

合計 五三七、四四〇円

以上のとおり認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

原告は、以上の他精神的損害を受けたというが、一般に財産的損害については、その損害額を賠償せられればこれをもって損害を回復したものと認められ、それ以上に精神的苦痛による損害賠償を求めるには、それを認めるに足る特段の事情を要するものというべきところ、本件においては前掲証拠に照し、長期間この状態が続いたことは明らかであるが、被告らにおいてもその解決のためそれなりに誠意をもって交渉にのぞんでいたことが窺われ、その他特段の事情を認めるに足る証拠はない。原告の右主張は採用できない。

八、そうすると、本訴請求は、被告らに対し右認定の補修を要することによる損害金五三七、四四〇円及びこれに対する本訴状送達の翌日である昭和五二年二月二四日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用し、よって主文のとおり判決する。

(裁判官 寺本嘉弘)

〈以下省略〉

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